JAMA Oncologyに掲載された、AYA世代(思春期・若年成人)の進行がん患者がなぜMAID(医師介助自死)を選択するのかを探った論文からの知見をまとめました。
この研究は、カナダ・アルバータ州でMAIDを利用した15〜39歳で診断されたがん患者34例(45歳未満でMAID利用)を対象とした後ろ向き研究です。
カナダでは、耐え難い苦痛を伴う回復不能な病気に対して、本人が希望し複数の医師が適格と判断した場合、医師の介助によって人生を終えることができます。
決して「治療を諦めた」わけではない
今回解析された34人(中央値約38歳、子育て中の人も含む)は、決して治療を諦めた人達ではありませんでした。
- 化学療法: 85%
- 放射線治療: 65%
- 手術: 68%
半数以上は複数治療を受けており、十分に治療を受けた上での選択でした。
最大の苦痛は「痛み」ではなく「喪失感」
患者が苦しんでいた最大の理由は痛み(63%)ではなく、「人生に意味を与えていたことが出来なくなった」(80%)ことでした。「自分らしく生きられなくなった」ことへの苦痛が強く表れています。
— AYA世代特有の苦痛(結婚、出産、子育て、昇進など、皆が未来へ進む中、自分だけが死へ向かっていく孤独感)
症状の推移とMAIDへの道のり
ESAS(エドモントン症状評価システム)を用いた死亡前1年間の症状推移の分析(論文のFigure 2, 3)によると、死亡11~6か月前までは比較的安定していますが、死亡約5か月前から景色が一変します。
痛み、倦怠感、食欲低下、不安、抑うつ、全身状態が急激に悪化し、死亡3か月前には評価患者の70%が「High Symptom Complexity(複数症状が重なり高度の苦痛状態)」に到達します。
しかし、患者はすぐにはMAIDを選ばず、数ヶ月間耐えた末に最終的にMAIDを選択しています。これは衝動的な決断ではなく、長期間続く苦痛の末の選択であることがわかります。
専門緩和ケア導入の遅れ
著者らが問題視しているのは、緩和ケア導入の遅さです。患者全員が最終的には専門緩和ケアを受けていましたが、半数以上は死亡3か月以内に導入されていました。苦痛が急増し始める時期(5ヶ月前)と比べるとかなり遅く、著者らは「進行がん診断時、あるいはESAS悪化時点で専門緩和ケアへ紹介すべき」と提言しています。
カルテ記録から見えた4つの共通テーマ
- ①社会的孤立: 友人達は結婚や仕事をしているのに、自分だけが病気であるという孤独。
- ②身近ながん死体験: 親族の苦しい最期を見た経験から「同じようになりたくない」という思い。
- ③コントロール喪失への恐怖: 歩けなくなる、話せなくなることへの恐怖。
- ④死の受容: 死を望んだというより、避けられない死を受け入れた上で最後の選択を自分で決めたいという意志。
この研究は安楽死の是非を問うものではなく、「若い進行がん患者が本当に苦しんでいるものは何か」を教えてくれます。医療者は身体的症状ばかりに目を向けがちですが、患者が失っていたのは将来、キャリア、家族との時間、自分らしさでした。AYA患者の苦痛をもっと早く拾い上げる必要性が示唆されています。